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DAI, MKR, PETHトークン

以下ではMakerDAOおよびDAI, MKR, PETHトークンの設計について考察する。記載内容についてはホワートペーパー等により知り得た客観的事実、そして我々が各国を回る中で得た知識・経験に基づいており、都度追記・修正を加えるものとする。また、本記事はトークンの将来的な価格変動に関して一切の責任を負わない。 

Update : 2018/6/18

概要

MakerDAOとは、Ethereumのコントラクトで実装された、ステーブルコインを実現するためのプラットフォームである。現在、MakerDAOは既にEthereumのメインネットで稼働しており、利用することが可能だ。MakerDAOで機能するDAI、MKRおよびPETHトークンはいずれもERC20に準拠するトークンだ。ステーブルコインは、①法定通貨担保型 ②暗号通貨担保型 ③無担保型 の3つに大きく分類することができるが、MakerDAOは暗号通貨担保型のステーブルコインである。
MakerDAOでは、Pooled Ether(PETH)を担保として1DAI = 1米ドルにソフトペッグされたDAIトークンを発行する。PETHとは、現在時点で担保資産として利用できる唯一のトークンで、DAIダッシュボード上でEtherと交換することによって入手することができる。PETHは、Etherとほぼ同等の価値を持つが、後述するLiquidity Providing Contractの働きによって価値が変動する場合がある。MakerDAOがPETHの仕組みを採った理由は、セキュリティ上の欠陥をセキュアかつ簡単に監査することができるからであると開発チームは説明している。なお、現在担保資産に使用できるトークンはPETHのみだが、将来は複数の暗号通貨を担保にできる設計になる計画で、その際にPETHは廃止される予定となっている。
DAIの注意すべき点は、必ずしも1DAI = 1米ドルにハードペッグされている訳ではないという点だ。MakerDAOによってDAIの目標価格が設定されるが、目標価格は後述するTarget Rate Feedback Mechanisms(TRFM)によって変動する場合がある。
DAIは、Collateralized​ ​Debt​ ​Position(CDP)を通じて誰でも発行することができる。DAIを作成したい利用者は、MakerDAOにトランザクションを送りCDPを新たに生成し、CDPに担保資産を送信する。担保資産の価値とLiquidation RatioによってCDPから取り出せるDAIの上限が決定され、その発行上限数まで利用者はDAIをCDPから取り出すことができる。CDPからDAIを発行した時、CDPから発行量と同量の債務が生まれ、債務をCDPに返済するまで担保はロックされて移動させることができなくなる。債務の返済には、発行したDAIに加え、Stability Feeという手数料を支払う必要がある。なお、Stability FeeはMKRでのみ支払うことができ、支払いに用いられたMKRはバーンされる。債務と手数料をCDPに支払うと、担保にかけられたロックは解除されアクセス可能になる。
また、CDPはリスクパラメータという複数のプロパティをもち、その値によってタイプが異なるCDPが存在する。CDPの主要なリスクパラメータは次の通りである。
①Debt Ceiling … 借り入れできる債務の限度額のこと。
②Liquidation Ratio … 債務における担保資産の比率。担保資産の下落によってこれを下回ると、CDPはLiquidity Providing Contractによって自動で清算(後述)される。
③Stability Fee … CDPの利用手数料。DAI建てで表示されるが、MKRで支払う必要がある。
④Penalty Ratio … CDPが自動清算された時にペナルティとして差し引かれる罰則金の比率のこと。

次に、MakerDAOがどのようにDAIの価値を安定させるかの仕組みについて説明する。主要な機能は、目標価格 、Target Rate Feedback Mechanisms(TRFM)、Sensitivity Parameter 、Global Settlementの4つだ。
DAIには目標価格が設定されているが、MakerDAOにおいて2つの重要な機能を持つ。
①CDPのLiquidation Ratioを計算するために用いられる
②Global Settlement実行時にDAI所有者が受け取る担保資産の価値を決定するために用いられる

Global Settlementとは、緊急事態が発生した際に、DAI所有者に目標価格を保証するための最終手段として実行されるプロセスのことを指す。緊急事態とは、MakerDAOがハッキングを受けた場合、セキュリティに問題があった場合、システムのアップグレードを行う場合が例として挙げられている。Global Settlemenは、MKR所有者の投票によって委任されたGlobal Settlerによって発動される。CDPの新規生成は停止し、目標価格は固定値で凍結され、全ての利用者はこの価格で払い戻し請求が可能となる。発動されて一定時間が経過したのち、全てのDAI保有者とCDP保有者は凍結された目標価格に基づいてEtherを請求することができる。

次に、TRFMについて説明する。TRFMとは、DAIの市場価格を目標価格付近に安定させるため、DAIを所有するインセンティブを自動で調整し需給のバランスを取ることによって、目標レートを調整するメカニズムのことだ。TRFMが働くと、DAIのペッグは一時的に失われるが、額面金額は変動しない。DAIの市場価格が目標価格を下回ると、TRFMは目標レートを上昇させる。これによって、目標価格が上昇し、CDPによるDAIの生成が高価になる。同時に、目標レートの上昇はDAIを所有することによるキャピタルゲインを生むため、DAIへの需要を喚起する。この供給の減少と需要の増加により、DAIの市場価格を上昇させて目標価格に達するよう動作する。DAIの市場価格が目標価格を上回った場合には、これが逆に動作する。Sensitivity Parameterは、TRFMによる目標レート変動の影響率のことだ。Sensitivity Parameterは、MKR所有者の投票によって決定される。例えば、Sensitivity Parameterと目標レートがともにゼロの場合、DAIは現在の目標価格にペッグされる。

MakerDAOのガバナンスは、MKR所有者によるActive Proposalの選出を通して行われる。Active Proposalとは、Makerプラットフォームのガバナンスにおける内部変数を変更するためのルートアクセス権を得ることができるコントラクトだ。Proposalは、Single​ ​Action​ ​Proposal​ ​Contracts​(SAPC)と ​Delegating Proposal​ ​Contracts​(DPC)の2種類ある。SAPCは、一度だけ実行可能なProposalであり、変数の変更をすぐに適用する。SAPCはそれ自体を削除し再利用することはできない。DPCは、コード化されたガバナンスロジックを通じてルートアクセス権を継続的に利用するプロポーザルだ。ガバナンスロジックは、リスクパラメータの更新について毎週投票しプロトコルを決定するというものである。誰でもプロポーザルをデプロイでき、MKR所有者の投票総数がもっとも多いコントラクトがActive Proposalとして選出される。

さて、MakerDAOでは発行したDAIの価値を担保資産が下回るリスクのあるCDPをどのように扱うのだろうか。上述したように、CDPはLiquidity Ratioという債務における担保資産の比率が設定されている。MakerDAOは、Liquidity Ratioを下回ったCDPを自動で清算するようになっている。清算の仕組みは、PETHのみを担保資産とする現在の期間限定の仕組みと、将来的に複数の暗号通貨が担保にできるようになった場合の2つが存在する。PETHのみを担保資産として扱う現在、Liquidity Ratioを下回ったCDPは、Liquidity Providing Contractによって自動的に清算される。清算されたCDPの所有者は、担保資産から債務、Stability FeeおよびPenalty Ratioによって規定された罰則金を差し引いた残額を受け取る。取得されたPETHはLiquidity Providing ContractによってKeeper(注1)にDAI建てで売却される。CDPの債務高に相当する金額に達するまでに支払われた全てのDAIはバーンされる。DAIが債務高を超えて支払われた場合、超過したDAIによって市場のPETHが購入され、購入されたPETHはバーンされる。PETHがバーンされることで、PETHのETH比率が変化し、PETH保有者にキャピタルゲインを生む仕組みになっている。逆に、担保資産であるPETHの売却によって債務高を補えなかった場合、コントラクトによってPETHが生成され、債務高に達するまで売却が続けられる。この場合、PETHは希釈し価値は毀損する。
次に、将来的に複数の暗号通貨を担保資産として扱うことができるようになった時の清算の仕組みについて説明する。精算時、MakerはCDPの担保資産をDAI建てで売却するCollateral Auctionと、MKRを新規発行し販売するDebt Auctionを自動的に並行して実行する。Collateral Auctionによって債務高をカバーできるだけのDAIが入札された場合、余った担保資産は元のCDP生成者に返却される。また、入札されたDAIによってMKRが購入され、このプロセスで購入されたMKRはバーンされる。債務高をカバーできなかった場合はDebt AuctionによってMKRが新規発行され販売されるため、MKRは希釈し価値は毀損する。

注1: DAIの取引を行ったり、CDPの清算時にオークションに参加したりする主体のことを、MakerDAOでは「Keeper」と定義している。経済的インセンティブによって行動しており、経済合理的な行動を取ることで結果的にMakerプラットフォームに貢献する外部者を指す。

ここまで見たように、MakerDAOは暗号通貨を担保とし現実の安定したターゲット資産にペッグすることを試みているため、かなり複雑な仕組みとなっている。DAIは米ドルにソフトペッグしているが、長期的にはよりボラティリティの低い安定した資産をターゲットとする計画だ。

ユースケース

もっともユーザビリティの高いケースはウェブで操作できるダッシュボードだ。METAMASKやMISTを起動することで実際にMakerDAOを利用する事ができる。Ethereumに繋がっている状態であれば良いので、自分で建てたノードに接続してももちろんオッケーだ。ダッシュボードは一見わかりにくいため、概要の項で説明した仕組みを理解していなければMakerDAOをスムーズに利用することはできないだろう。
もう一つの大きなユースケースは、スマートコントラクトではおなじみのJavaScriptライブラリだ。CDPのオープニングからクロージング、トークンの売買まで、基本的なことは全て行えるようである。
もちろん、GitHubからフォークすればローカルで運用することも可能である。

トークン設計

【DAI】
DAIトークンは、MakerDAOの中核となるトークンだ。CDPを通じて新規発行することができる。現在は米ドルにソフトペッグされ、目標価格は1DAI = 1USDに設定されている。上述の通り、TRFMが発動し目標レートとSensitivity Parameterが変動した場合には一時的にペッグが解除される。

【MKR】
MKRトークンは、MakerDAOのガバナンスに関わるトークンだ。デフォルトで1,000,000MKRが発行されているが、総発行量は固定されておらず、複数の担保資産をサポートした際のCDP清算時にMKRが新規発行ないしはバーンされる設計になっている。現在のCDPは単一の担保資産(PETH)のみサポートしているため、MKRの発行量が変動する余地はない。
MKRは、CDPに発行した際のStability Feeの支払いに使用できる他、Makerプラットフォームのガバナンスに関連した以下の項目に投票することができる。
①新しいCDPタイプの追加 … 個別のリスクパラメータを持つ新しいCDPの生成する。
②既存のCDPタイプの修正 … 既存のCDPのリスクパラメータの変更する。
③Sensitivity Parameterの変更 … TRFMにおけるSensitivity Parameterを変更できる。
④目標レートの変更 … TRFMにおける目標レートを変更できる。MKR所有者が現在の目標価格にDAIをペッグしたい時など特定の状況下で行われる。
⑤価格オラクルの選択 … オラクルの数や、どれがオラクルとして機能できるかを選択する。
⑥Price Feed Sensitivityの変更 … 価格フィードの最大変化率を変更することができる。
⑦Global Settlerの選択 … Global Settlementを実行する権利を持つGlobal Settlerを選定できる。

【PETH】
PETHトークンは、MakerDAOが複数の担保資産をサポートするまでの間、一時的に採用されているトークンである。必ずしもEtherとペッグしている訳ではなく、Liquidity Providing Contractの働きによって新規発行ないしはバーンされる設計になっている。

ディストリビューション

ここでは、MakerDAOのガバナンスに関わるMKRのディストリビューションについて説明する。MakerDAOは、MKRの配布計画についてオープンにしておらず、立ち上げ当初はMakerDAO独自のフォーラム内でMKRの販売を行った。また、当初は開発チームにMKR建てで給与の支払いを行っていたことを明かしている。
執筆時点で、立ち上げ当初の1,000,000MKRのうち618,228MKRが市場に流通し、318,772MKRはMakerDAO Foundationが保持している。市場に流通しているMKRのうち、約236,000MKRは新MKRに切り替えていない旧MKR所持者のためにコントラクトで保持(MakerDAOは、2017年12月にMKRを新しいトークンアドレスにアップデートしている。)されており、約113,000MKRはthe DS-Chief Voting Contractというコントラクトに複数の個人からガバナンス投票を預託されたMKRが保持されている。また、MakerDAO Development Fundから2017年12月にPolychain CapitalやAndreesen Horowitzといった機関投資家に1,200万米ドル相当のMKRを販売したことを発表している。MakerDAO Foundationが保持している残りのMKRの使途は具体的に規定されてはいないが、継続的な資金調達のために少額を売却し続けており、今後も資金調達や戦略的パートナーとの取引において使用する予定があるとMakerDAO創設者RuneはRedditで言及している。

(MakerDAOは、2017年12月にMKRを新しいトークンアドレスにアップデートしている。)

ロードマップ

2018年夏にはPETH以外の複数の暗号通貨を担保資産として使用できるようアップデートする計画。長期的には米ドルへのペッグではなくより安定した資産にペッグする計画で、その研究も行っている。

投稿者プロフィール

Baroque Street 編集部
Baroque Street 編集部
暗号通貨のシンクタンク。
アジア、ヨーロッパを中心に各種関連企業にヒアリングを行い、各国の法規制やトークンの設計、取引所の運営等を調査している。