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金融商品取引法という大きな壁(後編)

〜法規制から暗号通貨を考える③ 〜

前回、金融商品取引法についてその定義から、法律の根拠、各種事例について見てきた。今回はその番外編として、金融商品を扱ってきた経験のある取引所とそうでない取引所の違いについて考察していきたい。

日本の暗号通貨取引所(販売所含む)は「金商法系」と「ITベンチャー系」に大別される

本稿で見てきたように、金融商品には提供者側にも消費者側にも細かく複雑なルールがあり、グレーゾーンも含めて、ある意味「慣れ」が必要な領域であるとも言える。そして日本の暗号通貨取引所を見ると、金融庁を主体とした独特のルールに「慣れ」ている事業者とそうでない事業者に大別されることが分かる。その区分をここでは「金商法系」と「ITベンチャー系」と呼ぶことにする。業種的には金商法系の業者もほぼ全てITベンチャーになるが、ITで基盤を固めた後、金融に参入して実績を作ってきているという点で「金商法系」としている。また、一部外資系の企業などもあるが、ここではその対象としない。

金商法系

すでにFxや株取引において実績があり、オンラインを中心に顧客基盤を持っている企業。上場企業が多く、基本的には法律の枠組みに則り、ビジネスを行う。
DMM, SBI, マネックス, フィスコ, GMO, サイバーエージェント etc.

ITベンチャー系

ビットコインの登場以後、取引所ビジネスを主体として立ち上がったIT関連の企業。金商法の枠組にとらわれず、新たな枠組みの中で暗号通貨ビジネスを行う業者。
bitFlyer, coincheck, zaif, bitbank etc.

2018年から続々と金商法系の業者が参入してきており、業界図が徐々に変わってきている。金商法系の業者は既に株式やfxでの顧客基盤があり、暗号通貨に関しても完全に「金融商品」として捉える顧客層がメインになるため、それらの顧客をターゲットとしたマーケットレポートや税制に関する詳しい資料等がこれから増えてくると予想される。

金商法から考える、coincheckハッキング騒動とマネックス社による買収劇

上記の通り、これまで(特に2017年度)取引量が多く流動性の高かった取引所は主に「ITベンチャー系」であり、新興勢力が日本の暗号通貨を主導してきたと言える。これらの取引所は日本において法整備がなされる前から営業を開始しており、良く言えばイノベーティブ、悪く言えばノールールな環境で規模を拡大してきた。本稿でその過程について詳しく述べることはしないが、2018年度初頭のハッキング騒動についてのみ簡単に触れておきたい

取引所リスクの記事でも述べたが、実質的に100%ハッキングを防ぐというのは不可能である。その意味では、coincheckのセキュリティが他の取引所に比べて格段に低かったとは言い難い。しかし、ハッキングの後、セキュリティ以外の部分においてもcoincheckは多方面から厳しい指摘を受けた。それは、広義の意味において「金融リテラシーが欠如していた」ということだったのではないだろうか。ここでいう金融リテラシーとは「資産運用や株式公開などに関して詳しい」という知識の面のみならず、そもそも「大きなお金が動く際にどのように立ち振る舞えば良いのか」という心得的なものも含まれる。私ごとで恐縮だが、筆者らは過去に都市銀行で勤務していた経験がある。退職してから振り返った際、最も勉強になったのは金融知識や営業経験ではなく、「自由に人のお金を動かせる立場にあるものとしてのコンプライアンス」だったように思う。
今回のマネックス社の買収劇に関しても、そういったすぐには身につかないカルチャーの部分をcoincheck側が必要としており、それを補うことのできる金融経験豊富な会社ということでマネックス社に決定したという見方ができるのではないだろうか。金融庁への登録申請について、詳細は定かでないが、仮に独力で通過できたとしても、その後のコンプライアンス策定や管理が困難であったことは十分に考えられる。発表された買収額に関して、これまでcoincheckが稼いできたであろう額に比べるとあまりにも安いと感じた方も多かったであろうが、金融に対する覚悟と経験にはそれぐらいの価値がついているということだ。

お金の通り道に立つということは、一瞬にして莫大な収益を得ることのできる可能性がある一方で、一個人では負いきれない途方もない責任を負うということでもある。そして顧客の資産を預かってビジネスをしている以上、それはマネーゲームではない。coincheckは新しい金融を司るものとして、プロの黒子に徹することができなかったのではないか。全く論理的な考え方ではないが、そう思えてならない。今回coincheckを買収し、経営体制の刷新を図るマネックス社の手腕に期待したい。

また、本稿では決して「金商法が正義だ」と言っているわけではない。あくまで金融という世界は非常にボラィリティが高く、その分責任も重くなる故に、法律上も事細かに規定がなされ各種監査も厳しくならざるを得ないということ、そしてその責任をきちんと認識した上で業務に取り組んで行くべきだということを伝えるのが趣旨である。一方で、bitFlyerを始めとするITベンチャー系の取引所は、その枠組みに囚われず、ロビー活動等を通じて暗号通貨にとってより良い環境作りを進めてきた。その功績は非常に大きく、彼らの活動をなくしては日本の暗号通貨の発展はなかったであろうということを最後に述べておきたい。

 

投稿者プロフィール

Baroque Street 編集部
Baroque Street 編集部
暗号通貨のシンクタンク。
アジア、ヨーロッパを中心に各種関連企業にヒアリングを行い、各国の法規制やトークンの設計、取引所の運営等を調査している。