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電子マネーと前払式支払手段

〜法規制から暗号通貨を考える① 〜

暗号通貨の法律的枠組は国によって様々である。法規制で世界的に進んでいると言われる日本においても、その扱いは単純明快というわけではなく、相当な知識と理解を要する分野となる。そのため、暗号通貨の法律的な枠組みを考える前に、まずは現在日本において運用されている「お金の種類」とその根拠となる「法律」について、しっかりと理解しておく必要がある。今回はその第一回目として暗号通貨と比較されることの多い、電子マネーについて取り上げ、その運用を法規制の面から確認していく。

電子マネーに明確な定義はない

電子マネーといえば一般に、セブンイレブンの発行するnanacoや楽天の発行するEdy、交通系ICカードのSuicaなどが思い浮かぶだろう。こういった事前にチャージが必要なプリペイド式のものに加え、iDやQUICPayなどのようなポストペイ式のものもある。これらの特徴をまとめると「非接触型 (タッチ式) の決済システム」という表現になるだろう。だが、電子マネー自体の定義は、実は明確には決まっていない。
日本銀行のHPには「金銭的な価値を持つ電子的なデータ」という風に記載されているが「幅のある意味で使われることも多い」とも書かれている。クレジットカードを発行するオリコのHPでは「電子的なデータのやり取りによって決済を行う決済サービスの一種」という表現で説明されている。広辞苑には記載がなかったため、Cambridge Business English Dictionaryを参照すると

”e-money : money that is stored electronically, for example, on a computer or plastic card, and can be used to pay for products and services, for example, on the internet”

つまり「コンピュータやプラスティックカードなどから使用できるように電子的な形で保存され、インターネット上などでモノやサービスへの支払いに利用できるお金」と書かれている。
これだけ表現にばらつきがある理由は、電子マネーを運用するにあたって、言葉の定義を明確にする必要がないからである。便宜上、電子マネーという呼び名が定着しているだけで、法律的な枠組は別の形で存在している。

法律上の「前払式支払手段」という枠組

nanacoやEdy、Suicaなどのプリペイド式の電子マネーは全て、資金決済法上の前払式支払手段に該当する。この前払式支払手段についての詳しい解説は、金融庁発行のガイドライン(https://www.fsa.go.jp/common/law/guide/kaisya/05.pdf)に記載されているため、ここでは簡単にポイントのみまとめておきたい。
前払式支払手段となるための4つの要件として、(社)日本資金決済業協会が以下の4点を挙げている。

(1) 金額又は物品・サービスの数量(個数、本数、度数等)が、証票、電子機器その他の物(証票等)に記載され、又は電磁的な方法で記録されていること。
(2) 証票等に記載され、又は電磁的な方法で記録されている金額又は物品・サービスの数量に応ずる対価が支払われていること。
(3) 金額又は物品・サービスの数量が記載され、又は電磁的な方法で記録されている証票等や、これらの財産的価値と結びついた番号、記号その他の符号が発行されること。
(4) 物品を購入するとき、サービスの提供を受けるとき等に、証票等や番号、記号その他の符号が、提示、交付、通知その他の方法により使用できるものであること。
(一般社団法人日本資金決済業協会「前払式支払手段についてよくあるご質問と回答」より抜粋)

ただし、発行の日から一定の期限内に限り使用できるものについては、前払支払手段の対象外とされている。

前払式支払手段に該当すると法律上の制約を受けることになる

「前払式支払手段に該当するかどうか」という線引きがここまで明確かつ詳細に設定されているのは、消費者保護の観点が大きい。利用者が決済に必要な金銭を前払いするというのは、利用者にとっては一定のカウンターパーティリスクをとることに他ならないからである。そのため、前払式支払手段に該当する決済手段を採用する事業者は様々な法律的義務を負うことになる。その義務とは具体的に下記3つのようなものである。

◎ 報告義務
行政への届出や、発行額・未使用残高等の定期的な報告
◎ 表示義務
相談窓口の所在や利用上の注意、約款等の所在の明記
◎ 供託義務
未使用残高に対する一定の保証金の供託

前払いした金銭が発行者に対してのみ使用できるのか、第三者に対しても使用できるのかによって規制の範囲や内容は異なってくるが、本稿は前払式支払手段の適用を受け事業を開始したい事業者のサポートを目的とするものではないため、具体的なチェックポイント等は各専門家の見解を参照されたい。

近年規制の対象となったサーバー型の前払式支払手段

最後に、近年増加傾向にあるサーバー型の前払式支払手段について触れておく。資金決済法が2010年4月1日に施行される前までは、紙型 (商品券など)、磁気型 (テレホンカードなど)、IC型(Suicaなど)の前払式支払手段は、「前払式証票の規制等に関する法律」の枠組みにおいて管理されてきた。しかし、その枠組みでは規制できない種類の支払い手段が増加してきたため、上記の3パターンに「サーバー型」を加えた前払式支払手段を資金決済法の中で管理していくことになった。
この新たに登場したサーバー型の前払式支払手段は、残高等の金額情報が管理者 (事業者) 側のサーバーに保存されており、それが利用者の持つIDと紐づいているという特徴を持つ。具体例をあげると、amazonのギフト券やゲームの課金ポイントなどがこれに該当する。この「利用者の決済媒体本体に情報が保存されている」状況から「事業者のサーバー上に情報が保存されている」状況への変化は、暗号通貨の分散化のコンセプトとは真逆を行く事象であるため、非常に興味深い。また、資金決済法が施行されたのはビットコインが登場して間もない2010年4月であったため、この時点で規定された「サーバー」の定義には暗号通貨のような分散台帳の概念は当然含まれていなかったであろう。

次回は、電子マネーと並んで暗号通貨と比較されることの多い法定通貨について確認していく。

投稿者プロフィール

Baroque Street 編集部
Baroque Street 編集部
暗号通貨のシンクタンク。
アジア、ヨーロッパを中心に各種関連企業にヒアリングを行い、各国の法規制やトークンの設計、取引所の運営等を調査している。